アルコール依存症治療は生きづらさの治療
元TOKIOの山口さんの逮捕でアルコール依存症について注目されています。
私は以前アルコール依存症病棟に勤めていたことがあり、アルコール依存症について、知ってほしいことがたくさんあるので、どうか読んでいただけると嬉しいです。
アルコール依存症の治療ですが、入院する場合、患者はだいたい2〜3ヶ月程度入院します。身体の治療以外に心の治療、家族のケアを行います。
心の治療とは、認知行動療法やミーティングなどです。
認知行動療法とは認知の歪みを修整するもので、アルコール依存症だけでなく、うつ病やパニック障害の方もこの療法を用いることがあります。
認知の歪みって?と思う方もいると思います。
例えば
仕事で注意される(状況)
↓
自分はダメな人間だ(認知)
↓
落ち込む、酒を飲む(行動)
実際そうでしょうか。
仕事で注意されるのは人格を否定されてる訳でもなく、ダメな奴だと思われてる訳でもなく、単に同じミスを繰り返さないように、とか周りへの注意喚起といった意味がきっとあるでしょう。新人を指導する立場になって実際感じました。新人さんをダメな人間だと思っている訳でもないし、新人さんの人格を否定している訳でもなかったです。
なのでそこで自分をダメな人間だと思い込んでしまうのは認知の歪み、と捉えるべきです。
それで無闇に落ち込んだり、酒を飲んで気分を紛らわす、というのは自分を傷つける行為です。
こうやって認知の歪みを自覚することから始まりますが、これは依存症じゃない人達にも結構あることなんじゃないかと思います。
アルコール依存症になると、「適度に」お酒を飲むことが出来なくなります。いわゆる脳のブレーキが壊れた状態で、これは生涯治ることはなく、断酒生活は一生続くのです。
アルコール依存症の人たちは生きづらさの海にいると言います。生きづらさとは前述した認知の歪みであったり、元々の発達障害や精神疾患(依存症の入院で気付くことが結構あります)など。生きづらさの海にいる彼らにとってアルコールは命綱であり救命具なのです。
それをただ取り上げるだけだと、ただただ生きづらさの海に沈んでいくだけです。生きていけないのです。
このように自分の生きづらさに気付くことが治療の上でとても大切なポイントになります。
とはいえ、何十年も認知の歪みと共に生きてきた彼らが、それを自覚することは容易ではありません。入院の2〜3ヶ月でそれを自覚できることはほとんどなく、そのまま退院していきます。
そこで大切なのが自助グループです。
断酒会やAAと呼ばれる、アルコール依存症の人々が集まるグループに通うことによって、本音で話せる仲間を作ります。
本音で話せる仲間を作ることによって、断酒の辛さを分かり合ったり、仲間と一緒に人生を振り返ることで自らの生きづらさに気付くきっかけになったりします。
前述したように、断酒は生涯に渡って続きます。
生涯飲酒欲求と戦い続ける人生になるのです。
飲酒欲求は断酒を続けていくと弱くはなっていきますが、完全に無くなることはないといいます。
しかし彼らの命綱であった酒は、命や社会的地位、人間関係を脅かすものとなり、もう使えないのです。
そこで大切なのが「生きがい」です。
あくまで断酒は「手段」であって、「目標」ではないのです。
仕事を続けることだったり、孫に会うことだったり、どんなことでもいいです。
目標がないと辛くて長い断酒生活は続けられません。
依存症でなくても、目標がないと辛い仕事や勉強は続けられませんよね。
このように、アルコール依存症の治療は「生きづらさ」の治療であり、「生きがい」を見つける作業なのです。
「生きづらさ」への気付きと「生きがい」。これは依存症に限らず、生きていく上で大切なことだと思います。
これをきっかけに、自分の考え方の癖(認知の歪み)や生きがいを考えるきっかけになったら嬉しいです。
読んで頂いてありがとうございました。